- 2026.08.25
矯正治療後の歯ぐき下がりを治療|根面被覆術・結合組織移植術【福岡市】
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Before
治療前
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After
治療後
| 患者 | 女性 |
|---|---|
| 主訴・ニーズ | 歯茎下がりが気になるので、治療してほしい |
| 診断名・症状 | 歯肉退縮 Cairoの分類RT1 Millerの分類Class1 |
| 抜歯部位 | なし |
| 治療内容・治療費(自費診療) | 根面被覆術 |
| 治療費総額 | 自由診療 132,000円(税込) |
| 治療期間 | 約6ヶ月(経過観察・抜糸を含む) |
| 来院頻度 | 手術前 1〜2週間に1回 手術後1ヶ月までは、週1〜2回 手術後1〜6ヶ月 月1回 定期検診3〜4ヶ月に1回 |
| リスク・副作用 | 根面被覆術の主なリスク・副作用 外科的侵襲に伴う症状(痛み・腫れ・出血) 術後数日から1週間程度、治療部位や歯肉の採取部位(上顎の裏など)に痛み、腫れ、内出血が生じることがあります。 通常は処方される鎮痛薬や抗生剤でコントロール可能ですが、個人差があります。 移植組織の生着不良(壊死・生着しないリスク) 移植した歯肉に血液が十分に供給されない場合、組織が一部または全体的に生着せず、期待した露出部の被覆が得られないことがあります。 全身疾患(糖尿病など)や喫煙習慣がある場合、生着率が低下する傾向があります。 後戻り(歯肉の再退縮) 術後、過度なブラッシング(強すぎる歯磨き)や歯みがき圧、歯みがき粉の研磨剤、歯みがきの癖、歯みがき不足による炎症(歯周病の再発)によって、再び歯茎が下がってしまう可能性があります。 色調・形態の不一致(見た目の違和感) 移植した歯肉と周囲の歯肉で、色合いや厚み、質感が完全に一致しない場合があります。 一時的な知覚過敏の増強 術直後や処置の過程で、一時的に冷たいものや温かいものが沁みやすくなることがあります。 感染リスク お口の中の細菌により、傷口から感染を起こすリスクがあります。術後の口内環境の清潔維持や、指示された投薬の服用が不可欠です。 術後の注意点・成功のためのポイント 安静の保持:術後しばらくは、治療部位に指や舌で触れたり、激しい運動や長風呂、アルコールの摂取を控えたりする必要があります。 歯みがき方法の遵守:手術部位は指定された期間、通常のブラッシングを避け、専用の洗口液などを試す必要があります。 禁煙のご協力:タバコに含まれるニコチンは血流を悪化させ、治療成績を著しく低下させるため、治療前後の禁煙が推奨されます。 |
皆様こんにちは。まこと歯科・矯正歯科の木村誠です。
今回は、左下の奥歯の歯ぐき下がりを改善する治療を行った症例をご紹介します。
こちらの患者様は、以前にも当院で下の前歯の歯ぐき下がりに対する治療を受けられた方です。
今回は、左下の奥歯でも歯ぐきが下がり、歯の根元が露出している部分がみられたため、歯ぐきを元の位置に近づけ、歯の根元をできるだけ覆うための治療を行いました。
歯ぐき下がりは、見た目だけでなく、歯がしみたり、歯の根元がむし歯になりやすくなったりする原因になることがあります。
今回は、実際の治療経過とともに、どのような方法で歯ぐき下がりを改善したのかをご紹介します。
この先、手術中の写真が出てきます。苦手な方は、無理にご覧にならないようお願いいたします。。

※治療前の左下の奥歯の部分の写真

※黄色の線で囲った部分が歯茎下がりにより歯根が露出した状態です。
診査

※口腔内写真
また、こちらの患者様は、以前に他院で矯正治療を受けられています。
矯正治療では歯を動かすため、その移動方向や歯ぐき・骨の厚みなどの条件によっては、治療後に歯ぐきが下がる「歯肉退縮」が起こることがあります。実際に、矯正治療を受けた方では、受けていない方と比べて歯肉退縮がみられやすいとする研究報告もあります。

ある研究では、矯正治療を受けたことがある方は、受けたことがない方と比べて、歯ぐき下がり(歯肉退縮)との関連を示すオッズ比が4.48であったと報告されています。
この数字だけを見ると、「歯ぐきが下がるのであれば、矯正治療はしないほうがよいのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、歯ぐき下がりの可能性だけを理由に、矯正治療を避ける必要はないと考えています。
歯並びやかみ合わせを整えることは、見た目を改善するだけでなく、歯を磨きやすい環境をつくったり、歯にかかる力のバランスを整えたりするうえでも大切です。
また、矯正治療後に歯ぐき下がりが生じた場合でも、状態によっては**「根面被覆術(こんめんひふくじゅつ)」という、下がった歯ぐきを回復させる治療**によって改善できることがあります。
そのため当院では、歯並びやかみ合わせに問題があり、矯正治療によるメリットが大きいと判断される場合には、歯ぐきや歯を支える骨の状態にも十分配慮しながら、矯正治療を行うことが大切だと考えています。
さて、本題に戻ります。
まず外科処置を行う前に、歯茎下がりの状態を診査していきます。

※歯肉退縮部位と歯間乳頭の確認
歯ぐき下がりを治療する際には、歯ぐきが下がっている部分そのものだけでなく、その周囲の歯ぐきの状態を確認することも非常に重要です。
特に、上の写真で青色の丸で囲んだ、**歯と歯の間にある歯ぐき(「歯間乳頭」と呼ばれる部分)**の状態は、治療の難易度や、どの程度まで歯ぐきを回復できるかを判断するうえで大切なポイントになります。
今回の患者様では、幸いこの歯間乳頭の部分には、歯を支える組織の大きな減少(アタッチメントロス)は認められませんでした。
一方で、歯と歯の間の歯ぐきまで下がっている場合には、治療の難易度が高くなります。また、その程度によっては、根面被覆術を行っても歯ぐきを十分に元の位置まで戻すことが難しい場合があります。
そのため、歯ぐき下がりの治療では、下がっている部分だけを見るのではなく、歯と歯の間を含めた周囲の歯ぐきや骨の状態を総合的に評価することが重要です。

※角化歯肉の診査
上の写真で青色に囲んだ部分は、「角化歯肉(かくかしにく)」と呼ばれる、比較的しっかりとした丈夫な歯ぐきです。
また、その下にある黄色の線は、**「歯肉歯槽粘膜境(しにくしそうねんまくきょう)」**と呼ばれ、丈夫な角化歯肉と、動きやすくやわらかい粘膜との境界を示しています。
歯ぐき下がりが進み、角化歯肉が少なくなって、この境界付近まで歯ぐきが下がっている場合には、治療の難易度が高くなる傾向があります。
そのため、歯ぐき下がりの治療では、下がっている量だけでなく、その周囲にどのくらい丈夫な歯ぐきが残っているかを確認することも大切です。

※歯茎下がりの状態と角化歯肉の量の診査
今回の症例では、歯ぐきが下がっている量(歯肉退縮量)は1.5mm、角化歯肉の幅も1.5mmでした。
一般的に、歯ぐきが下がっている量が大きくなるほど、**露出した歯の根元を歯ぐきで完全に覆う「完全根面被覆」**は難しくなる傾向があります。
そのため、今回の症例のように歯ぐき下がりが比較的軽度な段階で治療を行うことは、より良好な治療結果を得るうえで有利と考えられます。
歯ぐき下がりは、進行してから治療するよりも、比較的軽度な段階で一度状態を評価し、必要に応じて治療を検討することが大切です。

※同部位のレントゲン写真
歯ぐきの状態だけでなく、その土台となる歯槽骨(しそうこつ)の状態を確認することも非常に重要です。
今回の症例では、画像検査でも歯を支える骨の吸収はほとんど認められず、良好な状態が保たれていることが確認できました。
診断
治療計画
今回の患者様は、歯ぐきが比較的薄いタイプでした。一般的に、歯ぐきが薄い場合は歯肉退縮が起こりやすいとされています。また、角化歯肉の幅も1.5mmとやや少なかったため、今回も結合組織移植術を併用することとしました。
結合組織移植術とは、ご自身の上あごの内側(口蓋)から歯ぐきの組織を少量採取し、歯ぐきが下がっている部分に移植する治療です。これにより、歯ぐきの厚みを増やし、より安定した状態を目指します。
手術方法には、歯ぐき下がりの治療で広く用いられている代表的な方法の一つである、**「歯肉弁歯冠側移動術(しにくべんしかんそくいどうじゅつ)」**を選択しました。これは、歯ぐきを歯の頭の方向へ移動させ、露出した歯の根元を覆う方法です。
明らかな歯肉退縮がみられたのは下顎左側第一大臼歯でしたが、その前後の奥歯についても、歯ぐきが薄いことなどを考慮し、将来的な歯肉退縮を予防する目的で、あわせて歯ぐきの状態を改善する治療を行うこととしました。

※切開線

※歯根の形態修正

※歯根部のデブライドメント(汚染物質を除去)
歯ぐきが下がって露出した歯の根の表面には、**細菌のかたまり(バイオフィルム)などが付着していることがあります。**そのため手術中に、露出した歯根の表面を丁寧に清掃し、きれいな状態に整えました。
これにより、移動・移植した歯ぐきが歯根の表面になじみ、安定しやすい環境を整えます。

※結合組織採取前の上顎

※上皮の除去

※結合組織採取
上記の写真は、上顎の口蓋から採取した結合組織。余分な脂肪組織を除去しました。

※リグロスの塗布
移植した歯ぐきが安定して治癒するためには、移植した組織に十分な血液が供給されることが非常に重要です。
今回は、採取した移植組織に**「リグロス」という薬剤を使用しました。リグロスには血管がつくられるのを促す作用があるため、移植した組織への早期の血液供給を促すことを期待して**使用しています。
リグロスは、もともと**歯周病によって失われた歯を支える組織の再生を促す「歯周組織再生療法」**に使用することが承認されている薬剤です。
一方、今回のように**歯ぐきの移植治療に使用する方法は、国が承認している本来の使用目的とは異なる「適応外使用」**にあたります。
そのため、すべての症例で同じ効果が得られることが保証されているわけではありません。当院では、薬剤の特徴や治療によって期待できる効果などを考慮したうえで、必要と判断した場合に使用しています。

※採取した後の口蓋
歯ぐきを採取した部分は、**傷口を完全に縫い閉じない状態で治していくため、手術後はコラーゲンシートで覆って保護します。**コラーゲンシートには、傷口を外からの刺激から守り、治癒を助ける役割があります。
今回は、このコラーゲンシートにも先ほどご紹介したリグロスを使用しました。
実際の診療では、リグロスを使用した場合に傷の治りが比較的早いように感じることがあります。ただし、この使用方法によって治癒が早くなることを示す十分な科学的根拠は現時点ではなく、あくまで当院での臨床経験から感じていることで、効果を保証するものではありません。
また、今回のような使用方法も、リグロス本来の承認された使用方法とは異なる適応外使用となります。

※術後の口蓋の部分
歯ぐきの組織を採取した部分は、今回のように表面の歯ぐきを薄く取り除いて採取する方法では、そのままにすると刺激を受けやすいため、保護用のシートを縫い付けて固定します。
さらに、手術後の出血を抑えるために、「止血シーネ」と呼ばれるマウスピースのような装置を装着していただきます。
この装置で歯ぐきを採取した部分を適度に圧迫することで、出血を抑えながら傷口を保護し、安定した治癒を促します。

※歯間部の上皮除去
今回行った歯肉弁歯冠側移動術では、下がった歯ぐきを歯の頭の方向へ移動させて、露出した歯の根元を覆います。
ただし、そのまま歯ぐきを移動させると、上の写真の黄色い丸で囲んだ部分で歯ぐき同士が重なり、厚く盛り上がってしまいます。
そこで、移動させた歯ぐきがきれいになじむように、受け入れ側となる歯ぐきの表面(上皮)を薄く取り除きました。
この処置を行うことで、移動させた歯ぐきが周囲の組織となじみやすくなり、安定した治癒を目指します。

※結合組織のサイズ確認
歯ぐき下がりが最も大きかった、奥から2番目の歯の部分を中心に、厚みや状態の良い結合組織を移植しました。
移植する組織をこの部分に重点的に配置することで、歯ぐきの厚みを補い、より安定した治癒を目指します。

※結合組織の固定
採取した結合組織は、歯の根元の周囲に縫合糸でしっかりと固定し、できるだけ動かないようにします。
移植した組織が治癒するまでの間、安定した状態を保つことは、根面被覆術を成功させるうえで非常に重要なポイントの一つです。
先ほどお話しした**「移植した組織への十分な血液供給」に加えて、「移植した組織を動かさず安定させること」**が、良好な治療結果を得るための大切なポイントになります。

※術直後
最後に、歯ぐきを歯の頭の方向へ引き上げ、縫合糸でしっかりと固定して手術を終了しました。
手術後は、移植した組織が周囲の歯ぐきとなじんで安定するまでの期間がとても重要です。そのため当院では、少なくとも2週間は、手術を行った部分に歯ブラシを当てないようにしていただいています。
手術直後の移植組織はまだ十分に安定していないため、歯ブラシなどの力が加わると、移植した組織が動いてしまい、治療結果に悪影響を及ぼす可能性があります。
そのため術後しばらくは、歯磨きだけでなく、指や舌で触ったり、強く引っ張ったりするなど、手術した部分にできるだけ力を加えないことが大切です。
根面被覆術では、移植した組織を動かさず、安定した状態を保つことが良好な治癒につながる重要なポイントになります。

※治療後
上の写真は、手術から半年以上経過した時点のものです。
歯ぐきが下がって露出していた歯の根元は、歯ぐきでしっかりと覆われ、完全根面被覆が得られました。
また、治療した部分だけでなく、その周囲の歯ぐきにも十分な厚みが得られ、丈夫な歯ぐき(角化歯肉)の幅も増加しました。
このように、露出していた歯の根元を覆うだけでなく、歯ぐきの厚みや丈夫さを増やすことで、今後の歯ぐき下がりが起こりにくい環境を整えることができたと考えています。
もちろん、将来的な歯肉退縮を完全に防げるわけではないため、今後も適切な歯磨きと定期的なメインテナンスを続けていくことが大切です。

※治療前と治療後の比較の写真
術前(左)の黄色の部分の歯根は、術後(右)では完全に歯肉で覆われていることがわかります。
まとめ
コロナ禍以降、当院では矯正治療を受ける患者様が増えているように感じます。それに伴い、今回のような歯ぐき下がり(歯肉退縮)について悩まれている方も、潜在的に増えているのではないかと感じています。
歯肉退縮は、それ自体がすぐに歯を失う原因になるものではありません。しかし、一度下がった歯ぐきは自然に元の位置へ戻ることは難しく、そのままにしていると、さらに進行することがあると報告されています。
また、歯の根元が露出することで、冷たいものがしみる「知覚過敏」が起こったり、年齢を重ねた際に露出した歯の根元にむし歯(根面う蝕)ができるリスクが高くなったりすることもあります。
歯肉退縮の治療、特に**下がった歯ぐきを元の位置に近づける「根面被覆術」**は、すべての歯科医院で行われている治療ではありません。
「矯正治療後に歯ぐきが下がってきた」「歯の根元が見えるようになった」「歯が以前より長く見える」「冷たいものがしみる」といった症状でお悩みの方は、歯肉退縮の程度や原因、治療が必要かどうかを含めて一度ご相談ください。
医院情報
医療法人 まこと歯科・矯正歯科
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