- 2026.03.15
矯正治療と歯肉退縮(歯茎下がり)との関係について
皆様こんにちは。福岡市東区香椎駅前でまこと歯科・矯正歯科の院長を務めております木村誠です。
矯正治療と歯肉退縮(歯ぐき下がり)について
今回のブログでは、**「矯正治療と歯肉退縮(歯ぐき下がり)」**について解説します。

※重度の歯肉退縮(矯正治療のご相談で来院された方の口腔内写真)
矯正治療を検討されている患者様の中には、
-
矯正をすると歯ぐきが下がるのではないか
-
矯正中に歯ぐきが下がってしまったらどうすればよいのか
- 歯茎が下がっているけど、矯正治療は可能でしょうか。
といった不安をお持ちの方もいらっしゃいます。
矯正治療は歯並びや噛み合わせを整えるための治療ですが、歯や歯ぐきの状態によっては、歯肉退縮が起こる可能性が指摘されていることもあります。
そこで今回は、矯正治療と歯肉退縮の関係について、患者様にも分かりやすいように次の内容に分けてご説明します。
① 矯正治療と歯肉退縮の関係
② 歯ぐきが下がる原因
③ 歯肉退縮のリスクが高い方
④ 歯肉退縮の予防方法
⑤ 歯ぐきが下がった場合の治療方法
⑥ 実際の症例のご紹介
① 矯正治療と歯肉退縮の関係
矯正治療と歯肉退縮の関係について
近年、特にコロナ禍以降、当院でも矯正治療を希望される患者様が増えているように感じています。歯並びや噛み合わせへの関心が高まっていることもあり、矯正治療を検討される方は年々増えている印象です。
矯正治療と歯肉退縮(歯ぐき下がり)の関係については、これまで多くの研究が行われています。
一部の研究では、矯正治療を受けた患者様の中で歯肉退縮がみられるケースがあることが報告されています。

一方で、別の研究では、矯正治療そのものが歯肉退縮のリスクを必ずしも高めるわけではないとする報告もあります。
このように、矯正治療と歯肉退縮の関係については、歯ぐきの厚みや歯の位置、歯並びの状態など、さまざまな要因が関係していると考えられています。
ここで大切なことは、歯並びや噛み合わせを整えることの重要性です。歯列を整えることは、見た目の改善だけでなく、将来的なお口の健康を保つためにも大切な治療とされています。
そのため、歯肉退縮のリスクについて適切に理解しながら、歯並びを整える治療のメリットとバランスを考えることが重要になります。
矯正治療を行う際には、歯ぐきや歯周組織の状態をしっかりと診査し、必要に応じて対策を検討していくことが大切です。
②歯茎が下がる原因

※歯肉の厚みを簡便に診査している様子(歯周ポケットの深さを測る器具を歯と歯茎の間の溝に挿入し、その器具が透き通って見えることから歯肉が薄いことがわかります。)
まず矯正治療をする・しないに限らず、歯肉退縮を生じることがあります。
歯肉退縮の原因には様々なことが考えられております。
歯肉が薄いタイプの方が矯正治療をされる場合は、歯肉退縮のリスクが上がります。
一般的には、歯肉の厚みが1mmというのが、境界線となります。歯肉の厚みを測るには、手術時にしかできませんが、簡便に診査するには、歯周ポケットを測るときに用いるプローブという器具を歯肉溝に入れて、そのプローブが透けて見える場合は、薄いと判断します。
他にも例えば、矯正治療中は、矯正装置を装着することになるため、プラークコントロールが難しく、歯肉炎を生じやすくなることもあります。それにより歯肉退縮を起こしてしまうこともあります。
もちろん歯ブラシの圧が強すぎると歯肉退縮を起こすこともあります。
咬合による歯肉退縮も報告されております。特に歯列不正を有している患者様の場合、咬合力を一部の歯で受け止めることになると歯肉退縮を起こすことがあります。
③歯茎が下がりやすいかたの特徴
歯肉退縮のリスクが高いとされる方
歯肉退縮はさまざまな要因が関係して起こると考えられていますが、その中でも**歯ぐきの形や厚み(歯肉のタイプ)**は重要な要素の一つとされています。
❶歯ぐきが比較的薄いタイプで、歯ぐきの縁の形が波のようにカーブしている**スキャロップ形態(Scalloped type)**の方は、歯肉退縮が起こりやすい傾向があると報告されています。

※Thin-Scallop(歯茎の厚みが薄い方に多い)
歯の形を見ると、逆三角形で、縦横比で縦の長さが長い。このような方は、一般的に歯茎の厚みが薄く、歯肉退縮のリスクが高いとされています。


※歯茎のラインをなぞると 、急な曲線を描く
歯茎の厚み、形態、歯の形、それらを支える歯槽骨の形体は、三位一体の関係にあることが多いので、見えている歯の形を見るだけもある程度歯茎が下がりやすいかどうかの判断がつきます。
一方で、歯ぐきが比較的厚いタイプで、歯の形が四角形に近い場合は、歯ぐきが安定していることが多く、歯肉退縮が起こりにくい傾向があるとされています。

※Thick-Flatタイプ(歯茎の厚みが厚い)
歯の形を見ると、四角形に近い形、歯の縦横比の縦の比率が小さい。このような方は、一般的に歯茎は厚く、歯茎が下がりにくい。逆に過剰に歯茎をお覆うこともあります。


※歯茎のラインを描くと、曲線が緩やかで平坦であることが分かります。
歯茎の厚みは、歯肉退縮に関係しますが、特に歯肉の薄いタイプの方の場合、歯肉退縮のリスクが高いことを知っておく必要があります。
❷**プラークコントロール(歯磨きによる清掃状態)**も歯肉退縮に関係する重要な要素です。
例えば、
-
強い力で歯磨きをしてしまう過度なブラッシング(オーバーブラッシング)
-
歯磨きが不十分でプラークが多く残り、歯周病を発症している状態
などの場合にも、歯ぐきが下がる原因となることがあります。
そのため、歯肉退縮の予防には、歯ぐきの状態に合った適切な歯磨き方法や定期的なメンテナンスが重要になります。

❸歯肉退縮を起こしやすい部位

※歯茎下がりを認める歯と認めない歯

※下顎前歯には叢生(ガタガタ)歯列を認めます。

※CT像
上の写真で黄色の線で囲っている歯は、歯の位置がやや外側にあり、本来歯を支えている骨の範囲から外側に近い位置にある状態と考えられます。
このように歯が外側に位置している場合、歯を覆う骨や歯ぐきの厚みが十分でないことがあり、歯ぐきが下がりやすくなる可能性があります。
その結果として、この部分では歯肉退縮(歯ぐき下がり)がみられている状態と考えられます。
※歯ぐきの状態には個人差があり、すべての方に同じように歯肉退縮が起こるわけではありません。
④歯肉退縮の予防方法
歯肉退縮を予防するために大切なポイント
矯正治療を行う際には、歯ぐきの状態を考慮しながら治療計画を立てることが大切です。歯肉退縮のリスクをできるだけ低くするために、いくつかのポイントが重要とされています。
① 無理のない歯の移動を考えた治療計画
矯正治療では歯を少しずつ動かして歯並びを整えていきますが、歯や歯ぐき、歯を支える骨(歯槽骨)の状態に合わせて、無理のない範囲で歯を移動させることが重要です。
特に、上下のあごの骨格的なずれが大きい場合には、矯正治療の方法や治療計画について十分に検討することが必要になります。

※下顎中切歯(下の人中から数えて一番目の歯のCT像)
下の前歯は特に注意が必要な部位です
矯正治療において、下の前歯(下顎前歯)の歯の移動量はとても重要なポイントになります。
上の写真で、黄色の線で囲っている部分があごの骨、
そして水色の線で示している部分が歯の根の位置です。
一般的に、歯の根がしっかりと骨の中に収まっている場合は、歯ぐきは安定しやすく、歯肉退縮が起こりにくいと考えられています。
しかし今回の症例では、歯の外側(唇側)の骨が非常に薄く、歯の根を十分に覆う骨が少ない状態が確認されました。
なぜ下の前歯は歯ぐきが下がりやすいのか
下の前歯の部分は、
- 歯ぐきが薄い
- 歯を支える骨(歯槽骨)の厚みが非常に薄い
といった特徴があります。
そのため、矯正治療で歯を動かす際にも、動かせる範囲に限界がある部位とされています。
もし歯を骨の外側へ押し出すような動かし方をしてしまうと、歯ぐきが下がるリスクが高くなる可能性があります。
歯並びを整えることで起こる変化
下の前歯に歯の重なり(叢生)がある場合、それを整えることで見た目や清掃性は改善しますが、場合によっては
- 歯と歯の間の歯ぐき(歯間乳頭)が減少する
- いわゆる「ブラックトライアングル(すき間)」が見えるようになる
といった変化が起こることもあります。
犬歯や小臼歯でも注意が必要です
また、下の前歯だけでなく、犬歯や小臼歯の部分でも歯肉退縮が起こることがあります。
特に、いわゆる「八重歯」のように、歯が外側に飛び出している状態(低位唇側転位)の場合は、歯が骨の外側に位置していることがあり、歯ぐきが下がりやすい傾向があります。
一方で、矯正治療によって歯を骨の中に収まる位置へ移動させることができた場合には、歯ぐきの状態が改善する可能性があるケースもあります。
② 歯ぐきが薄い場合は歯ぐきの厚みを改善する治療を検討

※結合組織移植術(黄色の線で囲った部分が上あごから採取した結合組織)
歯ぐきが薄いタイプの方では、歯肉退縮が起こりやすい傾向があるとされています。
そのため、必要に応じて**歯ぐきの厚みを改善する治療(フェノタイプモディフィケーションセラピー)**が検討されることがあります。これは、歯ぐきの厚みを増やすことで、歯ぐきの安定性を高めることを目的とした治療です。
具体的には、**結合組織移植術(けつごうそしきいしょくじゅつ)**という方法を用いて、歯ぐきの厚みを増やす治療が検討されることがあります。
この治療では、主に上あごの歯ぐきから組織を採取し、歯ぐきが薄くなっている部分に移植することで、歯ぐきの厚みを補うことを目的としています。
歯ぐきの厚みを改善することで、
- 歯ぐきの安定性を高める
- 歯肉退縮のリスクを抑える可能性がある
と考えられています。
③ 適切なプラークコントロール
歯ぐきの健康を保つためには、毎日の歯磨きによるプラークコントロールが重要です。
ただし、歯ぐきを強くこすりすぎるようなブラッシングは、歯肉退縮の原因となることがあります。そのため、
-
毛先の硬すぎる歯ブラシの使用を避ける
-
強い力での歯磨きを控える
-
ワンタフトブラシなどを併用し、丁寧に清掃する
といった方法が勧められる場合があります。
矯正治療中は装置の周囲に汚れがたまりやすくなるため、歯科医院での定期的なチェックやブラッシング指導も重要になります。
※お口の状態によって適切なケア方法は異なる場合があります。
⑤矯正治療開始前にすでに歯肉退縮を起こしている場合や矯正治療中・後歯茎が下がった場合の治療
矯正治療中や矯正治療後に歯ぐきが下がった場合の対応
矯正治療中や治療後に歯肉退縮(歯ぐき下がり)がみられる場合には、その原因や状態に応じて対応を検討していきます。
① 歯の移動方向を修正する場合
矯正治療中に、治療計画とは異なる方向へ歯が移動し、歯を支える骨(ボーンハウジング)の外側へ歯が近づいてしまうことがあります。
そのような場合には、歯の移動方向を修正することで、歯ぐきの状態が改善する可能性があります。
② 咬合(かみ合わせ)の調整を行う場合
矯正治療中には、一時的に特定の歯へ咬む力が集中することがあります。
その結果、**咬合性外傷(噛み合わせによる負担)**が生じ、歯ぐきが下がることがあります。
このような場合には、かみ合わせの調整を行うことで歯ぐきの状態が改善することもあります。
③ 矯正治療後に歯ぐきの治療を行う場合
矯正治療が終了したあとに歯肉退縮が残っている場合には、根面被覆術(歯ぐきの移植など)によって治療を行うことがあります。
また、矯正治療が終わってしばらく経ってから歯肉退縮がみられるケースもあります。そのような場合にも、状態に応じて根面被覆術などの治療を検討することがあります。
矯正治療と歯肉退縮の治療の順番
歯並びの乱れ(歯列不正)があり、同時に歯肉退縮がみられる場合には、
-
矯正治療を先に行うのか
-
歯ぐきの治療を先に行うのか
という点を検討する必要があります。
特に、歯が重なっている状態(叢生)では、歯が本来あるべき骨の位置から外れていることがあります。このような場合には、根面被覆術の難易度が高くなることがあります。
そのため、歯並びを整えることで歯の位置が改善し、その後に歯ぐきの治療を行った方が治療が行いやすくなる場合もあります。
歯並びを整えることで歯ぐきの状態が変わることもあります
叢生を改善することで、歯と歯の間の歯ぐき(歯間乳頭)の形が変化することがあります。場合によっては歯間乳頭が減少することもあり、その場合には完全に歯ぐきを回復させることが難しい場合があります。
また、歯間乳頭を失ってしまった場合には、元の状態に戻すことが難しいケースもあるため、治療計画を立てる際には慎重な診査が必要になります。
一方で、矯正治療によって歯の位置や移動方向が改善されることで、歯肉退縮の状態が改善する可能性があるケースもあります。
このように、矯正治療と歯肉退縮の関係は一人ひとりの状態によって異なるため、歯並び・歯ぐき・骨の状態を総合的に診査したうえで治療計画を立てることが大切です。
⑥症例
矯正治療前に根面被覆を行った症例

※矯正治療前
矯正治療の前に歯ぐきの治療を行うことがあるケース
矯正治療の前に根面被覆術や歯ぐきの厚みを増やす治療を検討するのは、歯の位置や今後の歯の動かし方によって、歯ぐきがさらに下がる可能性がある場合です。
例えば、
- 歯の根があごの骨の範囲から大きく外れていない
- 矯正治療で歯列を外側へ広げる方向に歯を動かす可能性がある
このようなケースでは、あらかじめ歯ぐきの厚みを増やす治療を行うことで、将来的な歯肉退縮のリスクを抑えることを検討する場合があります。
これは、歯ぐきが薄いまま歯を外側へ動かすと、歯ぐきに負担がかかり、歯肉退縮が進行する可能性があるためです。
今回の症例について
今回の症例では、抜歯を行わずに歯並びを整える治療方針が考えられました。
抜歯を行わずに歯列を整える場合には、状況によっては歯列の幅を広げる方向に歯を動かす可能性があります。
そのため、治療前の段階ですでに歯肉退縮がみられる場合には、矯正治療によって歯ぐき下がりが進行する可能性も考慮する必要があります。
このような場合には、歯の位置、歯ぐきの厚み、歯を支える骨の状態などを総合的に診査し、矯正治療を先に行うか、歯ぐきの治療を先に行うかを慎重に検討していくことが大切です。
⭐︎右側犬歯〜小臼歯部



⭐︎左側臼歯部

※根面被覆前

※根面被覆術

※根面被覆後

※治療前(上記左)と根面被覆後(上記右)
黄色の線で囲った部分に注意すると左右とも歯肉の厚みが増していることがわかります。歯肉の厚みを増すことができたので、矯正治療に移行することとしました。

※矯正治療開始(インビザラインによるマウスピース型矯正治療)
治療終了時

矯正治療後に根面被覆を行った症例
矯正治療後に根面被覆を行う場合は、場合によっては、矯正治療前よりも歯肉退縮が進行してしまう可能性もあります。
他院にて矯正治療治療後に根面被覆を行った症例

※治療前の口腔内写真

※下顎前歯部
矯正治療後、歯茎が少しずつ下がってきていることが気になるということで、当院に来院されました。上記写真の黄色の線で囲った部分が歯肉退縮により露出した歯根部となります。約1〜2㎜程度の歯肉退縮を認めます。

※歯間乳頭
黄色の丸で囲った部分にブラックトライアングルを認めます。歯間部のアタッチメントロスを生じている場合、根面被覆の難易度が上がります。

※歯肉退縮部の診査
歯肉退縮の診査を行う場合、歯冠の中央と歯間部のアタッチメントレベルを測定することで精査します。

※歯肉退縮部位を側方から観察
歯根の突出を確認することができます。あまりに歯根の豊隆が強い場合や、突出が大きい場合は、根面被覆の難易度が圧倒的に上がってしまうことがあります。

※手術直前の下顎前歯部

※結合組織移植術
歯肉が非常に薄いことがわかりましたので、結合組織移植術を併用することとしました。また下顎前歯などの非常に歯肉が薄い場合、不適切な切開を行うと更なる歯肉退縮を起こすこともあるため、VISTAテクニックという方法を用いることとしました。
VISTAテクニックについて
そこで今回は、歯ぐきへの負担をできるだけ抑えるために、**VISTAテクニック(低侵襲の歯周外科手術の一つ)**を用いて治療を行うこととしました。
この方法は、歯ぐきへの切開を最小限にしながら処置を行う方法で、歯ぐきの血流を保ちやすいことが特徴とされています。
そのため、歯ぐきが薄いケースにおいても、歯ぐきへの負担を抑えながら治療を行うことができる可能性がある方法とされています。

※術直後
フラップを歯冠側に挙上できるような縫合を行いました。

※術後
歯肉退縮は、概ね改善しました。
まとめ
矯正治療と歯ぐきの健康について
矯正治療と歯肉退縮の治療は、お口の状態をしっかりと診査・診断したうえで、適切なタイミングで行うことが重要です。
歯肉退縮は、
- 歯並び
- 歯ぐきの厚み
- 歯の位置
など、さまざまな要因が関係して起こると考えられています。
矯正治療は、歯並びや噛み合わせを整えることで、将来的なお口の健康にも関わる大切な治療の一つです。
一方で、治療の経過やお口の状態によっては、矯正治療後に歯ぐきが下がることがあります。そのような場合には、状態に応じて根面被覆術(歯ぐきの移植など)を行うことで改善が期待できるケースもあります。
歯ぐきが下がってきたことが気になる方や、矯正治療を検討されている方は、まずは現在のお口の状態を確認することが大切です。
当院では、歯並びと歯ぐきの状態を総合的に診査し、患者様に合った治療方法をご提案しています。
気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。
医院情報
まこと歯科・矯正歯科
福岡県福岡市東区香椎駅前2-12-54-201
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