- 2025.07.05
「前歯の歯並びと笑った時の歯ぐきの見え方(ガミースマイル)を改善|20代男性への矯正とインプラント治療の症例」
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Before
治療前 右上の側切歯(正面から2番目の歯)の欠損。左上の側切歯は矮小歯(歯のサイズが小さい)
治療前の口元
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After
治療後 欠損部にはインプラント、小さい歯に対しセラミックで対応
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Before
初診時 口腔内
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After
治療終了時 口腔内
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患者 | 年齢 20代 男性 この患者様は初診時において歯列不正に加え、先天的に前歯が欠損している状態であった。 さらに受動萌出不全といい、歯が生える過程の異常により、歯が短くなっており、 審美的な問題(笑った時に歯茎が見えるガミースマイル)もあった。 このように問題が複雑に絡みあった口腔内を治療するには、非常に高度な専門的知識 と治療技術が必要となる。 精密検査後、歯周形成外科を行い、歯の大きさを正常な状態に近けたあと、矯正治療 を開始した。歯列が整った時点でインプラント手術を行い、その後補綴治療 (被せ物やラミネートベニアなど)を行った。 治療後は、審美性・機能性ともに向上し、患者様からの満足を得られた。 |
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主訴・ニーズ | 歯並びを綺麗にしたい |
診断名・症状 | 空隙歯列 上顎右側側切歯欠損 上顎左側側切歯矮小歯 受動萌出不全 |
治療内容・治療費(自費診療) | 治療費精密検査 44,000 矯正歯科治療 660 ,000 歯周形成手術 110,000 インプラント(上部構造を含む 385,000 サージカルガイド 55,000 プロビジョナル(インプラント) 33,000 プロビジョナル(天然歯)11,000 全て税込 |
治療費総額 | 1,298,000円(税込) |
治療期間 | 2年 |
来院頻度 | 月1回程度 |
リスク・副作用 |
矯正歯科治療中に歯の動く痛みを生じることがあります 矯正歯科治療中に歯肉腫脹や歯肉退縮が起こることがあります 矯正歯科治療中に知覚過敏を生じることがあります 矯正歯科治療後に咬合変化が生じることがあります |
皆様こんにちは。まこと歯科・矯正歯科(福岡市東区香椎駅前)の院長を務めております木村誠です。
今回ご紹介するのは、20代の男性患者様の症例です。
「前歯の歯並びをきれいに整えたい」とのご希望で当院を受診されました。
患者様は、笑ったときに歯ぐきが大きく見えてしまう「ガミースマイル」が気になるご様子でした。また、前歯の欠損や歯の大きさの不揃いもあり、見た目と機能の両面で改善が必要な状態でした。
そこで今回は、矯正治療とインプラント治療を組み合わせることで、前歯の見た目や噛み合わせを美しく、かつ機能的に整えた治療例をご紹介いたします。
※治療前後のスマイル時のお口元
ガミースマイルとは?
笑ったときに歯ぐきが3〜4ミリ以上大きく見えてしまう状態のことを、一般的に「ガミースマイル(Gummy Smile)」と呼びます。
ガミースマイルは見た目(審美性)に影響することが多いですが、それ自体が噛む機能に問題を起こすことは基本的にありません。
ただし、もしガミースマイルの原因が噛み合わせのズレや顎のバランスの問題によるものであれば、その噛み合わせの不具合が機能的な問題を引き起こすこともあります。
※初診時スマイル時のお口元
上記の写真を見て頂くと、一目瞭然ですが、笑顔になった際、歯茎が大きく露出していることが分かります。
★ガミースマイルの原因を調べるときのポイント★
ガミースマイルの原因を正しく診断するためには、いくつかのことを順番に詳しく調べていくことが大切です。
❶くちびるの動きや厚みを確認すること
笑ったときのくちびるの動き方や長さを診て、歯ぐきが多く見えてしまう原因を探ります。
❷ 歯や歯ぐきの状態を調べること
歯の形、大きさ、歯ぐきの健康状態を確認します。
❸ 笑ったときにどれくらい歯ぐきが見えているかを確認すること
鏡や写真を使って、笑顔のときに実際にどのくらい歯ぐきが見えているかをしっかり診ます。
このように順番に調べることで、どこに原因があるのかを正しく見極め、適切な治療方法を考えることができます。
今回の症例もこの順に診査をしました。
❶くちびるの動きや厚みの確認
※上唇の厚みの計測
上唇の厚みについて
上の写真の黄色の矢印で示している部分の長さが、上唇(赤唇)の厚みになります。
一般的に、日本人成人の上唇の厚みは 約7〜10mm程度 とされていますが、今回の患者様は 約8mm あり、平均的な厚みであることが確認できました。
※鼻の下の人中(上口唇上縁)から上唇と下唇の接合点までの距離の測定
日本人成人の上口唇の長さ(人中上縁から唇の接合点まで)は、一般的に約18〜22mmとされています。
この患者様は23.6mmであり、平均よりやや長いことが分かります。
なお、上口唇の長さが平均より短い場合、ガミースマイルの原因となる可能性があります。
上唇の挙上量の診査
「上唇が笑ったときにどれくらい上がるか(挙上量)」は、一般的に約6〜8mmが平均とされています。
この患者様は7mmでしたので、特に問題のない範囲です。
もし平均より大きく上がりすぎる場合は、歯ぐきが見えすぎて“ガミースマイル”の原因になることがあります。
また下記に示す公式に測定値を代入することで、上口唇の過挙上を診断することもある。
❷ 歯や歯ぐきの状態の診査
※初診時口腔内写真
初診時の口の中の全体写真について
初診時にお口の中を全体的に確認したところ、上の前歯にすき間ができている(空隙歯列)状態が見られました。
※初診時正面からの写真①
前歯のすき間について
黄色の矢印で示している部分のすき間は、右上の前歯の一部(側切歯)が生まれつき無かった(先天的欠損)ためにできていました。
また、水色の線で示している歯は「矮小歯(わいしょうし)」といって、通常よりも小さい形の歯(形の異常)です。このように歯が小さいと、隣の歯との間にすき間ができやすくなります。
※上唇小帯高位付着
上記写真の矢印と丸で囲った部分のことを上唇小帯と言います。これが歯の根本まであると歯と歯の間に隙間を生じることがあります。この症例でも両側中切歯間にわずかな隙間がありました。
このように、前歯のすき間には歯が生まれつき無いことや歯の大きさの問題など、いくつかの原因が重なっている場合があります。
※上顎の前歯の縦・横の長さ
※日本人の上顎前歯の縦・横の長さの平均 参考文献 歯の解剖学 第22版 藤田恒太郎
上の前歯の大きさについて
日本人の上の前歯の平均的な縦と横の大きさと比べてみると、この患者様の上の前歯は、全体的に少し短めであることがわかります。
特に左側の前から2番目の歯(左側側切歯)は、横幅も平均より約2ミリほど小さい状態です。
このように歯が小さいと、前歯のすき間ができやすくなったり、見た目のバランスが気になることがあります。
「歯の縦横のバランス(縦横比)」を見ると、少し縦が短めの歯でしたが、強いすり減り(咬耗)は見られませんでした。
もし歯がすり減っていると、かみ合わせを補おうとして歯ぐきが見えやすくなり、ガミースマイルの原因になることがあります。
しかし今回のケースでは、そのような問題はありませんでした。
※Ctのボリュームレンダリング像
CTを撮影し、歯肉縁とセメント-エナメル境、歯槽骨との位置関係を確認しました。なお歯肉縁の確認には、X線不透過性の材料を歯茎部に置き、Ctを撮影することで確認しました。このCT像からセメントエナメル境は、歯肉縁下にあり、つまり本来健康な歯ぐきでは、歯肉縁(歯ぐきの先端)はCEJより約1〜2mm上(歯冠側)に位置するのが正常とされています。しかし今回の症例では、部位によっては、3ミリ以上歯肉の中に埋もれていることから萌出不全と診断しました。
※上顎右側中切歯のCT像
上顎右側中切歯の断面をCTにて観察すると、赤い矢印で示すあたりが、歯肉縁、水色の矢印で示すあたりが、セメント-エナメル境、黄色で示す部分が歯槽骨頂です。歯肉の中にエナメル質が余分に埋まっていることが分かるのと、セメント-エナメル境から歯槽骨頂はほぼ正常であることから能動的萌出不全ではなく、受動的萌出不全であると診断しました。
※初診時正面かの写真②
上下の中心のズレについて
上下の青い線(正中)に注目すると、上下の歯の中心が少しズレているのがわかります。
このように歯の中心が合っていない場合、下あごが少し左側にズレている可能性も考えられます。
噛み合わせのバランスにも影響することがあるため、詳しく確認して治療計画を立てることが大切です。
※初診時パノラマX線写真
※デンタルX線写真14枚法
※初診時歯周病検査表
パノラマX線写真やデンタルX線写真(14枚)、歯周病の検査結果を確認したところ、
上の前歯の周りには少し歯ぐきに炎症(歯肉炎)は見られましたが、歯ぐきが大きく腫れている(歯肉増殖)は認められませんでした。
また、上の前歯の周りには、歯を守るために必要な固い歯ぐき(角化歯肉)も十分にあり、5ミリ以上あることが分かりました。
❸ 笑ったときにどれくらい歯ぐきが見えているかを確認
※スマイル時の歯肉の露出の診査
お写真を確認したところ、笑ったときに両側の正面から1番目の歯では歯ぐきは見えていませんでした。
ただし、両側の犬歯(側切歯)より奥の歯の部分では、笑ったときに歯ぐきが3ミリ以上見えていることが分かりました。
※頭部X線規格写真および分析値
頭のレントゲン写真と分析結果から、骨格は少しだけ下あごが前に出ている『軽度の3級』であることが分かりました。
上あご(上顎骨)はやや前に出ている傾向はありますが、正常範囲内です。
下あご(下顎骨)は正常値を少し超えて前に出ている傾向が見られました。
歯の位置を見ると、上の前歯(中切歯)はほぼ正常な位置にありました。
一方で、上の奥歯(第1大臼歯)は、少し垂れ下がった位置にあることが分かりました。
この奥歯の垂れ下がりは、上あごの奥歯の部分(臼歯部)の上下方向の成長が大きいために生じていると考えられます。
また、かみ合わせの平面は平らで、角度が小さい『ローアングル』タイプでした。
これらを総合すると、前歯の位置が適切なので前歯部分では歯ぐきが目立ちにくく、
逆に奥歯の部分で歯ぐきが見えやすいのは、かみ合わせが平らで奥歯がやや下がっているためと考えられます。
※バッカルコリドー
「バッカルコリドー」とは、笑ったときに奥歯の横のほっぺた側にできる“黒いすき間”のことを言います。
このすき間が大きいと、歯並び(歯列弓)が横に狭くなっていることが多いです。
スペースが大きいとどうなるの?
歯列が横に狭いと、口の中の空間(上あごの幅)が十分に広がらず、
それが原因で舌の位置が低くなったり、上気道(空気の通り道)が狭くなることがあります。
その結果、
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いびきが出やすくなる
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睡眠の質が下がる
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お子さんの場合は口呼吸や歯並びの悪化につながる
などの影響が出ることがあります。
このバッカルコリドーが大きい方は、矯正治療(上顎歯列を広げる)、補綴治療(補綴治療による対症療法)、外科治療(外科的に歯列を広げる)などで改善させることができます。
診断
今回の上の前歯の見た目の気になる部分(審美障害)やガミースマイルの原因としては、
① 歯ぐきがしっかり下がりきっていない『歯の萌出(ほうしゅつ)不足』、
② 上あごの奥歯の部分の骨が上下に少し伸びすぎていること、
③ 右側の前から2番目の歯(側切歯)が先天的に無いこと、
④ 左側の側切歯が小さい形をしていること、
これらが複雑に関係していると診断しました。
治療計画
今回の治療計画としては、
歯ぐきが下がりきっていない部分(受動萌出不全)には歯ぐきを整える『歯肉切除術』を行います。
歯並びの乱れ(歯列不正)には矯正治療を行い、
右側の前から2番目の歯(側切歯)が無い部分には『インプラント治療』で歯を補います。
また、左側の側切歯は小さい形をしているため、『ラミネートベニア』で形を整える計画を立てました。
治療手順
その後、歯並びを整えるために矯正治療をスタートします。
矯正治療で歯並びが整ったタイミングで、右側の前から2番目の歯(側切歯)が無い部分にはインプラント治療を行い、
さらに最終的な形を整えるために確定的な歯冠長延長術を行います。
その後、右側側切歯にはインプラントの被せ物を装着し、
左側の側切歯にはラミネートベニアで形を整える予定です。
またその際、上唇の小帯(すじ)が上の位置に付いていて、
前歯のすき間(正中離開)が開きやすい状態だったため、
すき間を閉じるために『小帯切除術』も一緒に行いました。
治療経過
※歯冠長延長術前
この患者様の場合、前歯だけでなく、奥歯に至るまで受動萌出不全を認めました。この状態では、矯正装置もやや装着しにくい状態でしたので、まず歯ぐきの基本的なお手入れ(歯周基本治療)を行った後、上あごのすべての歯に『歯冠長延長術(歯ぐきを少しカットして歯を長く見せる処置)』を行うこととしました。
※歯肉切除
今回の治療では、まず矯正の装置がきちんとつけられるように、歯ぐきを整える処置(歯肉切除)を行いました。
このあと矯正治療を進めていくと、歯の位置が動くため、それに合わせて歯の見え方(萌出の状態)も変わります。
そのため、1回目の歯肉切除はあくまで矯正装置をつけやすくすることを目的に行い、
矯正治療で歯並びが整い、最終的な歯の位置が決まった段階で、必要があればもう一度、
仕上げとして歯ぐきを整える処置(2回目の歯肉切除)を行う計画です。
※手術直後
今回は、歯ぐきを整える処置(歯肉切除)に加えて、上唇のすじ(上唇小帯)も切除する手術を同時に行いました。
最後に縫合(糸で縫う処置)をして、手術を終了しました。
※矯正治療開始
手術の後は、歯ぐきなどの粘膜がしっかり治るのを待ってから、矯正治療をスタートしました。
※矯正治療経過
この写真は、矯正治療が順調に進み、ほとんど最終段階に入った頃のものです。
欠損していた右上の側切歯(前から2番目の歯)の部分には、インプラント治療ができる十分なスペースが確保できました。
※インプラント1次手術および2回目の歯肉切除手術前
右上の側切歯(前から2番目の歯)が無い部分に、インプラントの1次手術を行うことにしました。その際、最終的にどのような歯の形になるかをあらかじめ予想して作った『ステント』という型を使い、これを基準にしてインプラントを正しい位置に入れる計画です。
※手術中①
切開して歯ぐきを開いて確認したところ、上の写真の黄色い線が歯を支えている骨(歯槽骨)の一番上のラインです。
最終的に作る予定の歯の型(ステント)と比べると、骨の位置が歯ぐきのラインから約1mmしか余裕がありませんでした。
このままの状態でインプラントを入れると、計画より小さい歯しか作れなくなってしまう可能性があります。
※手術中②
最終的に作る歯の形に合わせてバランスが良くなるように、歯を支える骨(歯槽骨)を少し整えました。これは、歯と歯ぐきの健康なスペース(生物学的幅径)を確保するために必要な処置です。今回は、最終的な歯の歯ぐきのライン(歯頸線)から約3ミリの位置まで骨を削って調整しました。
※手術中③
インプラントを入れる穴(インプラント窩)を作ったところ、インプラントの周囲(頬側)には2ミリ以上の十分な骨の厚みがあることが確認できました。
※インプラント埋入
今回は、骨を増やす処置(骨造成)は必要なく、インプラントを入れる手術だけを行いました。
※手術直後
矯正治療でほとんど最終的な歯の位置が整った段階でも、まだ歯ぐきが下がりきっていない部分(萌出不全)があったため、仕上げとして歯ぐきを整える処置(確定的な歯肉切除術)を行いました。その後、縫合(糸で縫う処置)をして手術を終了しました。
※インプラント埋入直後のデンタルX線写真
適切な位置にインプラントを埋入できたことを確認しました。
※プロビジョナルレストレーション(精密な仮歯)装着
インプラントを入れた部分がしっかり安定するまでの期間(免荷期間)を待ってから、
右上の側切歯(インプラント部分)と左上の側切歯に、形や噛み合わせを確認するための精密な仮歯(プロビジョナルレストレーション)を装着しました。
※治療終了時①
綺麗な歯列になり、術前の上の前歯の隙間は無くなりました。
※治療終了時②
治療後は、噛み合わせの面(咬合平面)がしっかり整い、横に顎を動かしたときの噛み合わせ(犬歯ガイド)も正しく機能するようになりました。また、上下の前歯の噛み合わせもきちんと改善されました。
※最終補綴装着時
仮歯(プロビジョナルレストレーション)を装着して、見た目(審美性)や噛む機能に問題がないことをしっかり確認した後、最終的な被せ物を作製して装着しました。
右上の側切歯(インプラント部分)には、E-maxという強度と透明感に優れた素材を使い、セメントで固定する方法で仕上げました。
左上の側切歯には、同じくE-maxを使ったラミネートベニアで形を整え、自然な見た目に仕上げました。
※治療後のスマイル時の口元
今回の治療では、歯ぐきを整える外科処置(歯周形成外科)、歯並びをきれいにする矯正治療、失った歯を補うインプラント治療、さらに歯の形をきれいに整えるラミネートベニアなど、さまざまな高度な治療を組み合わせました。その結果、治療後は自然で美しい笑顔になりました。
まとめ
ガミースマイルは、さまざまな原因が複雑に重なって起こることが多い現象です。
治療を成功させるためには、まず『なぜガミースマイルになっているのか』という原因をしっかり調べて見極めることがとても大切です。
原因が分かれば、それに合った治療法を選ぶことができます。
当院では、ガミースマイルでお悩みの方が笑顔に自信を持てるように、
丁寧な診査・診断と一人ひとりに合った治療を行っております。
笑ったときの歯ぐきの見え方でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
まこと歯科・矯正歯科
福岡県福岡市東区香椎駅前2丁目12-54-201
電話番号 092-692-2963