- 2025.05.25
「重度の歯周病に対し、上顎前歯部インプラントを含む治療を行った症例」
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Before
初診時 正面
初診時 上顎
初診時 左側側方面
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After
治療終了時 正面
治療終了時 咬合面
治療終了時 左側側方面
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Before
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患者 | 30代男性 |
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主訴・ニーズ | 左上の奥歯が噛んだ時に痛む(数日前から) |
診断名・症状 | 広範型歯周炎 Stage4 GradeB |
抜歯部位 | 上顎右側側切歯 |
治療内容・治療費(自費診療) | 歯周組織再生療法 660,000円(1ブロック110,000円×6) 矯正治療 880,000円 インプラント治療 495,000円 |
治療費総額 | 2,035,000円 |
治療期間 | 7年 |
来院頻度 | 月1回程度 |
リスク・副作用 | 1. 歯周組織再生療法におけるリスク ◆ 一般的な副作用 術後の腫れや痛み:処置部位の炎症や不快感が数日続くことがあります。 出血:術中・術後に出血が見られる場合があります。 感染:術後の口腔衛生が不十分な場合、感染が起こることがあります。 ◆ 特有のリスク 再生不良:重度歯周炎では歯槽骨や歯根膜の再生が不完全に終わる可能性があります。 歯の動揺・脱落リスク:再生が不十分だと歯の安定性が保たれず、抜歯に至ることもあります。 2. 矯正治療におけるリスク ◆ 歯周病患者特有の注意点 歯の移動による骨吸収:歯周組織が弱っている状態で力をかけると、逆に骨を失いやすくなります。 歯の動揺悪化:矯正力によってすでに不安定な歯がさらにぐらつくことがあります。 ◆ その他の副作用 ルートレスポンス(歯根吸収):歯根が短くなることがあります。 装置による口腔清掃困難:ブラッシングが難しくなり、炎症が再発する可能性があります。 3. インプラント治療におけるリスク ◆ 一般的なリスク インプラント周囲炎:天然歯と同様にインプラント周囲の組織も炎症を起こす可能性があります。 オッセオインテグレーション(骨との結合)の失敗:骨の量や質が不十分だとインプラントが定着しないことがあります。 ◆ 重度歯周炎患者特有の注意点 感染再発のリスク:口腔内環境が悪いと、治療後に再発しやすくなります。 長期的な成功率の低下:健康な骨・歯肉が少ないため、一般的な患者に比べてインプラントの寿命が短くなる場合があります。 総合的なリスク管理 綿密な治療計画とメインテナンスが成功の鍵です。 定期的なクリーニング、咬合調整、口腔衛生指導が不可欠です。 全身疾患(糖尿病など)や喫煙習慣もリスク要因となります。 |
皆様こんにちは。まこと歯科・矯正歯科の院長を務めております木村誠です。
今回は、全顎的に歯周病が重度に進行した患者様に対し、歯周組織再生療法、矯正治療、インプラント治療(上の前歯)を行なった症例をご紹介致します。
患者様は、30代の男性で、主訴は、左上の奥歯が痛いという主訴で来院されました。
上記写真は、初診時の口腔内写真
主訴である左上は、この時点では、虫歯はなく、また全て神経のある歯であることが分かりました。
しかしながら、レントゲンや各種検査から歯周病であると診断しました。
口腔内全体を写すレントゲン写真から全顎的に歯周病が進行していることが分かりました。
歯周病は、骨が炎症によって吸収する病気ですので、レントゲンを細かく撮影し、全体的な歯周病の状態を検査しました。
全顎的に歯周ポケットは深く(最も深い部位では、10mmを超える部分も存在)、またその際出血も多いことから歯周病が進行していると判断しました。
上記の写真は、初診時の上顎の写真ですが、歯列は乱れており、綺麗なアーチを描いておりません。特に黄色の矢印で示す歯は、大きく歯列から飛び出していることが分かります。このように歯周病が進行した方は、病的な歯の移動を起こすことがあります。
別角度から見ても前方に突出していることが分かります。
上下前歯の咬合状態です。丸で囲った部分は、上下の前歯の接触がありません。この状態では、前歯の機能を十分に発揮できません。
歯周病が進行すると歯列不正を生じることがあり、またそれが歯周病を進行させてします間接的な要因となります。
最も歯周病が進行していたのは、上顎右側側切歯(上記レントゲン写真の矢印で示す歯)は、歯根の周囲は、根の先を超える部分まで骨吸収が進行しており、こちらに関しては抜歯となりました。
上記の写真は、下顎の前歯部のレントゲン写真です。こちらも歯根周囲には、一部根尖近くまで骨吸収を起こしておりましたが、こちらに関しては、治療により保存を試みることにしました。
上記写真(下顎左側臼歯部)正常であれば、青い線付近まで骨がありますが、黄色の線まで骨吸収が進行しております。
上記写真は、下顎左側犬歯のレントゲン写真です。黄色の三角形で囲んだ部分が骨吸収を起こしています。このような骨吸収を垂直的骨吸収と言いますが、このような骨吸収の形態は、歯周病が進行しやすいことが、論文で報告されております。
上記の資料及び検査から問題点をリストアップしました。
①全顎的に重度の歯周病を有している。
②歯列不正を呈している。(抜歯矯正の既往があり)
③上顎右側側切歯欠損
これらから診断としては、
重度歯周炎により、咬合崩壊を起こしつつある顕在的病定的咬合と診断しました。
#1広範型重度慢性歯周炎 STAGE4GRADE B
#2上顎右側側切歯欠損
治療計画
1️⃣全顎的歯周組織再生療法
2️⃣全顎的矯正治療
3️⃣インプラント治療(上顎右側側切歯)
ただし、矯正治療に関しては、1️⃣が奏功した場合に行うことが前提となります。
それでは、実際の治療の経過を以下に示します。
奥歯の歯周組織再生療法前の状態です。歯周病は、歯が綺麗な方でも発症してしまう可能性があることがお分かりになって頂けると思います。
徹底的に歯石及び肉芽組織を除去し、右下臼歯部には、エムドゲインと骨補填剤(バイオス)、それ以外はリグロスと骨補填剤(バイオス)を用いて歯周組織再生療法を行いました。
その後縫合し、固定をワイヤーにて固定しました。
手術後は、週に1、2回程度消毒のために来院して頂きました。歯周組織再生療法後は、2週間から1ヶ月の間通常の歯磨きができません。そのため、歯科医院に来院して頂き、プロフェッショナルケアが必要になります。
セルフケアは、手術した部位以外は、通常の歯磨きをすることができます。手術部位は、歯磨きできないため上記のマウスウォッシュで可及的に清潔な状態を保つことになります。
次に下顎前歯部の歯周組織再生療法にとりかかかりました。
治療前の状態
切開・剥離子、歯石の除去と肉芽の掻爬を行い、徹底的に綺麗にしました。
こちらもリグロスと骨補填剤を骨欠損部に塗布及び填入しました。
丁寧に縫合し、舌側にワイヤーにて固定をしました。
いよいよ最後に上顎前歯部に歯周組織再生療法および上顎右側側切歯部にGBR(骨再生誘導法)を行うこととしました。
上顎前歯部の術前
上顎右側側切歯部
通常抜歯すると粘膜および骨はボリュームが減少します。上記の写真のように凹んでしまいます。さらに今回は、重度歯周炎により重度の骨吸収を起こしておりましたので、大きく凹んでしまいます。この状態では、審美性(歯の根元が黒くなったり、歯を長くなる)、清掃性(磨きにくい)などに悪影響を及ぼしてしまいます。
切開・剥離し、徹底的に歯石除去と肉芽の掻爬を行いました。
歯肉を切開・剥離すると骨がほとんどないことが分かります。
骨補填剤と吸収性の遮蔽膜を用いて、GBR(骨再生)を行いました。
切開した粘膜が、裂開しないようしっかりと縫合しました。
上顎前歯もその他の部位同様に最後は、ワイヤーにて固定を行います。
※ワイヤーで固定する理由
歯周病の手術で切開・剥離すると手術後一時的に歯の動揺が増します。歯が動くとその周囲の組織にも微小動揺を生じてしまいます。その結果、骨再生料の減少を生じることになるため、歯周組織再生療法後は、何らかの固定が必要になります。
この固定は、当院では約半年間を目安に除去するようにしております。
上記写真は、全顎歯周組織再生療法後半年以上が経過した際の口腔内写真
歯周組織は、再生しましたが、この咬合状態では、再発しやすい環境が残るため、矯正治療を行うこととしました。
頭部X線規格写真
頭部X線規格写真の分析結果から
軽度の骨格的2級(上顎前突)歯性の上顎前突であることが分かりました。
この患者様は、矯正治療の既往があり、すでに4本の小臼歯を便宜抜歯してあります。そのためこれ以上抜歯をすることはできません。前歯の形態を少しスリムにして上下の前歯の前突の改善と乱れた咬合平面の是正を行う治療計画としました。
上記写真は、セットアップ模型といいます。矯正治療前に模型上で治療計画が実現可能かどうかをシミュレーションします。
上下とも表側(唇側)に装置を装着し、矯正治療を開始しました。
矯正治療が終了した際の口腔内写真です。歯列のアーチは整い、バランスの良い咬合状態となりました。
最後に欠損している上顎右側側切歯のインプラント治療を開始することとしました。
インプラント手術前の状態
上記写真は、治療前と歯周組織再生療法後(GBR)との比較
黄色い丸で囲っている部分の粘膜の陥没が改善しました。
切開・剥離した際の口腔内写真
上記写真は、GBR(骨再生)前後の比較したものです。
骨の陥没もかなり改善していることが分かります。
インプラントを埋入
更にインプラント周囲にGBR(骨造成)を行いました。
吸収性の膜を利用し、上皮の陥入が起こらないようにします。
丁寧に縫合しました。
治療終了時の口腔内写真①
治療終了時②
治療前後の上顎の歯列の変化(術後は、綺麗な馬蹄形の歯列へと変化している。)
治療前後の前歯の噛み合わせの変化(しっかりと上下の前歯が接触していることが分かります。)
治療後のパノラマレントゲン写真
全顎的に重度の歯周病でしたが、上顎右側側切歯以外の歯は、全て保存することができました。
治療後のデンタルレントゲン
治療前後の下顎前歯部のレントゲンの比較
矢印で示している部分は、術前根尖まで骨吸収しておりましたが、術後骨様組織が再生していることが確認できます。
治療前後の右下臼歯部のCT画像での比較、丸で囲っている部分の骨の再生を認めます。
別角度のCT像
術前根尖まで骨吸収を起こしておりましたが、術後のCT像では、骨の再生を認めます。
左下臼歯部のデンタルX線写真とCT像
こちらも術後に骨の再生を認めます。
上顎右側側切歯部の術前・術後のCT像の比較
術後のCT像からインプラントの頬側には十分な骨が存在することが分かります。
術後の頭部X線規格写真
フレアーアウト(外開き)していた上下前歯部は改善され口唇を閉じやすくなりました。
治療終了時の正面写真
治療期間は、長くなりましたが、歯周病が改善し、歯列も整い良好な口腔内の状況になりました。
まとめ
今回の症例のように、重度の歯周病は20代後半から30代の若い年代でも発症することがあります。しかし、この年代の方はお忙しいこともあり、歯科医院を受診する機会が少ないのが実情です。
歯周病が重度にまで進行してしまうと、最悪の場合は抜歯が必要となり、歯を残せたとしても、高度な歯周病治療が必要になることがあります。
もし重度の歯周病でお悩みの方がいらっしゃいましたら、どうぞお気軽に当院までご相談ください。
まこと歯科・矯正歯科
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